島根の伝統工芸への扉

3月 7, 2021 | スポット

島根には陶磁器や漆器など、長い歴史を持つ良質の伝統工芸品があります。その歴史を学ぶのに最適な美術館が、出雲市にある手錢記念館(以下、記念館)です。

記念館は出雲大社から徒歩で行ける場所にあり、地域の旧家である手錢家に代々受け継がれてきた貴重な美術品や伝統工芸品を保存、管理してきました。元々は雑穀商だった手錢家は、のちに造り酒屋も始め、出雲大社に納める御神酒も造っていました。手錢家の当主は、出雲大社を訪れる位の高い人物(藩主や藩士、その家族)のための御用宿(ごようやど)の主人や、地域のまとめ役である大年寄(おおどしより)も務めました。

そのような所以で、手銭家は何世代にも渡って数多くの素晴らしい美術工芸品を所有することになりました。その中には島根で最も高名な画家の1人である堀江友聲(1802-1873)の作品も含まれています。記念館の入り口近くにある第1展示室は米蔵を改築したもので、数々の貴重な収蔵品が年に数回入れ替わり、企画展示されています。

酒蔵を改築した第2展示室には、出雲地方の伝統工芸品が常設展示されています。収蔵品の多くは松江藩7代藩主、松平治郷公(1751-1818)によって盛んになった芸術復興の時代まで遡ります。島根では茶人大名、不昧公の名で有名なのはご存じの通りです。治郷公は民衆の生活をよりよくするために尽力しましたが、財政面からも芸術を支援したお殿様でもありました。

出雲焼と呼ばれる陶器は主に2つあります。赤茶色をした、高麗写しの茶陶(朝鮮半島から伝わった茶器が転用されたもの)が特徴的な楽山焼と、青、黒、黄色の鮮やかな釉薬を使う布志名焼です。現在では、布志名焼雲善釜と出雲焼楽山釜の2つの窯元だけが出雲焼の伝統を伝えています。手銭記念館を訪問すれば、その両方の美しい作品を同時に見ることができます。

また出雲地方に伝わる漆器も展示されており、必見すべきは、蓋に金銀の美しい蒔絵模様が施された3段の菓子器です。(菓子器とは、お茶会の席でおもてなしの器として使われた菓子入れのこと)上品な紐結びの文様は精巧に描かれており、その技術は実に見事です。房の中の紐1本にいたるまで緻密に表現されています。

第2展示室には19世紀から20世紀初頭(江戸時代~昭和初期)に日常的に使われていた生活用具も数百点展示されています。特に素晴らしいのは、1890(明治23)年に手銭家に嫁いできた女性の婚礼家具です。その一部に、細部まで華麗な装飾が施された簪(かんざし)がたくさん並べてあります。最も可愛らしい簪は、井戸の滑車を模して作ったミニチュアで、チェーンで上下に動く小さな桶がついています。(翻訳者より、見に行く価値あり)

多くの展示品の解説は日本語で書いてあるので、館内のベンチに置いてあるノートを探してみてください。英文解説が詳しく載っています。記念館には冷暖房が設置されていないので、訪問する際は気候に合わせて冬は暖かく、夏は涼しい服装で行ってみてくださいね。

Tezen Museum 手錢記念館

www.tezenmuseum.com/

島根県出雲市大社町杵築西2450-1

電話:0853(53)2000

開館時間:9:0016:30

休館日:火曜日(火曜日が祝日の場合は翌日)、年末年始、展示替期間中

 来館前にHPにて各種情報をご確認ください。